2001年FIS世界選手権をふりかえって

TEAM DLWH

飛鳥井匠哉

目次


感想

私は,前節のワールドカップファイナルから現地入りさせて頂きましたが,率直に感じた事は,「年々世界との差は広がるばかり…」残念ながらそういった事でしょうか.

それもそのはず、私達が世界選手権で舞台を共にしなければいけない各国のトップアスリート達は、毎週同レベルの大会で切磋琢磨しあってシーズンの最後でさらに大きな名誉を掛けて戦っているのです.それまでの過程がない私達がそこでいきなり対等に戦って彼等に負けない結果を残すなど聊か虫が良い御話なのでしょうか…

しかしながらそんな中でも最後まで諦めることなく精一杯戦い続けた日本チームと私の参戦記を以下で書かせて頂いています.

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毎日の出来事と感想


9月2日 

ベネス飛行場よりフォルニデソプラに到着

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9月3-4日 練習日

各国チームも現地入りする中、私達日本チームは各自コンディショントレーニングと,グラススキートレーニングを行った.私と藤本選手は既に経験もあり、フォルニデソプラのグラススキー環境に戸惑う事はなかったが,他のチームメイトは完全に「引いていた」様だった.今まで日本人が考えていたグラススキー滑走可能斜面とはかけ離れていたからでしょう。それでも全員が使命感を持ってトレーニングを開始しました.

私は過去の経験から「時差ぼけや長旅直後のグラススキーは危険」である事を知っていたのでみんなには『調整』の域を超えない様なトレーニングを薦めました.しかしそれにしても最低限度5日は必要と思われる調整期間は本番当日までに用意されていなかったのでアクシデントが起こらない様に祈る気持ちでした.

私自身は順調に調整が進み,斜面構成,滑走スピードを確実に理解しはじめていました.ワールドカップからの遠征を許されて自費といえどもヨーロッパに少しでも長く滞在できた事は結果としてとても幸せだったと実感できました。

また今回監督としてきて頂いた森田さんは最終日まで『コーチ・監督・アシスタント』として完璧に仕事をこなしていらっしゃいました.海外でバーンの確保や自前ポールもないのにポールを借りてポールセッティングをする事は、本当はとても大変な事だと思いますが,それらを他国のコーチともしっかりコミュニケーションとってなさっていました.私の知る限り最高の『トレーナー』だと思いました.

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9月5日 開幕戦 女子スラローム 男子は練習 開会式

最初のレース,女子スラロームは素晴らしいレースでした.昨年のプレ大会では完走者はたったの1人だけと、女子にこのコースでの大会は不可能と思わせる状況でしたが,多くの女子選手はかなりの努力をしたのでしょう.斜面に負けて守りに入ることなく攻撃的な滑りで見事なレースを演出していました.

なかでも3位に入賞したドイツの『ブーデンボーダー・アンナレーナ』選手は若干15歳.。しかしながらアスリートとして鍛え上げられた軽い身のこなしと技術で、周囲を驚かせました.優勝した『イングリット・ヒルヒホファー(AUT)』選手は現役生活22年間で92勝目を達成してオーストリアで国民的ヒーローとなっています。一般誌で多くの紙面を割いて大々的に報道されていました.

開会式はイタリア陸軍の大迫力の吹奏楽隊の演奏もあり,街の人々総出となって多いに盛り上りました.

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9月6日 男子スラローム

この日のこのレースが事実上の世界チャンピオンを決める重要なレースでした.グラススキーのレーサーはなぜか全員スラローム好きで一生懸命練習する為,競技レベルも非常に高いのです.

私を含む日本選手達はFISレースに出場する機会もほとんどなく良いポイントを持っていないため不利な遅いスタートですが,トップシードの選手の滑りを研究できる事でそれはとても良い勉強となりました.

トップシードの滑りは当に圧巻!グラススキースポーツとして理解し難いほど、目にも止まらぬスピード,そしてそれを継続するバランス保持能力、その根底には圧倒的なパワー.どれを取っても『スーパーアスリート』と呼ぶに相応しいパフォーマンスでした.

しかしながらコース(地面)はそのパフォーマンスに耐える事が出来るわけもなくあっという間に芝生はなくなり,土と砂利のコースとなってしまいました.そんな中私が日本チームの1番手でスタート.私にとってもスラロームは最も好成績が狙える種目でしたしこの日のために調整をしました.しかし1本目の結果は斜面途中で用具にアクシデントを招いてしまい,故障したスキーで滑らなければいけない事もあってトップから4秒遅れの25位と超不本意な結果でした.

2番手は藤本選手、気持ちが負けていたように思えました.実力発揮できなくて焦ったのかコース終盤でコースアウトとなってしまったようです.

3番手の八島選手,彼はあまりにも実力が十分でなかった様です.しかしながら謙虚な気持ちでがんばったのか日に日に進歩していましたが、それでもまだ足りなくて途中危険となってしまいました.

その後豊野さん,根岸さんはしっかりまとめてゴールしました.さすがベテランです.豊野さんに限っては19位とかなり良い位置につけました.

2本目…

優勝は『ヤン・ネメッツ』(CZ)選手でした.私とは親交があるので以前から色々な話をしていましたが,今シーズン全てのFIS主催レースのSL競技で優勝という圧倒的なスーパースターも、世界選手権では初優勝で感動はひとしおだったと思います.言葉では表現する事も出来ないほどの圧倒的なパフォーマンスはビデオなどを見て頂いて御覧下さい.

日本チームの一番手は豊野選手、1度のミスが命取りとなるこのコースで豊野選手といえどもミスを隠す事は出来なかった様です.それでも順位を上げて18位は素晴らしい成績でしょう.

2番手は私,1本目では大きなミスをしてしまいました。2本目は最高レベルの戦闘モードに気持ちを切換えて戦いました.結果は大きく順位を上げて19位!今の私では精一杯のパフォーマンスが出来た事で満足しました.

大会前に参加させて頂いたイタリア代表合宿では,『闘志を剥き出しにする事』を教わりました.それが大会で実行できました.大会前『世界との差が年々広がっている』事を実感してしまった私でしたが,ここで一気に世界との差が縮まりました.グラススキーの世界で、もしかしたら私自身が世界のトップアスリートに成れるかもしれないと初めて想う事が出来た最初の瞬間でした.

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9月7日男女大回転競技

女子の優勝は『リチコバ・シルバ』選手(CZ)、回転競技よりさらの難易度の高い大回転のコースでしたがとてもハイレベルな戦いの中優勝しました.2本目最後に滑った彼女でしたがスタート直後の大きなタイムロスのもめげることなく栄冠を勝ち取ったその姿に観客の多くが魅了されました.

男子は,「サルトリ・ステファー」(ITL)が優勝しました.前節のワールドカップファイナルグーテンシュタイン大会で転倒して肩を脱臼してしまいましたがスピードカムバック!周囲を感動させました.

彼は私と同じ職業なので常日頃から良く連絡をとっているのですが,『母国イタリアの世界選手権での優勝』を夢見て努力していました.その夢がかない良かったのではないでしょうか.

日本チームの一番手は私,昨日の2本目から調子が良かったのもあり,日本人全般が苦手とするこの種目の割には,世界に通用する1歩手前くらいでミスなく完走できたと思います.スラロームと同様世界で戦う事の出来る『感触』だけはつかめました.

2番手藤本選手 レース毎,大会毎,開催国ごとによって変化するシュツエーションの中で変化に適応する能力がつくにはまだ少し経験不足でしょうか.大回転競技における実力は完全に私より上ですが,まだまだ2ランクも3ランクもレベルが上がらないと『自身満々』で実力発揮するのは難しいのかもしれません.

大回転においてはスキーが壊れてしまった豊野選手を除いて他の日本チームは今回は戦いの舞台に立つ事さえも難しいと思わざるをえませんでした.『向き不向き』もあるのかもしれませんが,大きな『マインドチェンジ』が必要かもしれません.

9月8日 休息日

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9月9日 男女スーパー大回転

この日のスーパー大回転競技は,全世界のトップグラススキーヤーが,グラススキー競技の限界に挑戦するという趣向で行われているかのようでした.私のみならず世界のトップアスリート達でさえも『恐怖が心を支配する』気持ちにさせられたのではないでしょうか…

それでも世界中の選手たちは『誇りを胸に』戦いました.その結果は多くの観衆を魅了しました.

女子の優勝はスイスの選手.2位には現在の女子グラススキー界の3強『イングリット』『リチコバ』『パオラ』が同タイムで入ると言う僅差のレースでした.しかしながら優勝が思いきりダークホースだったりする事で女子のレベルが未だそれほど高くない事を示していて、まだまだ日本の女子選手のもチャンスはあるのではないかと思われました.

男子の優勝は前日に続いて『サルトリ・ステファーノ』選手。彼以外の選手ももちろん『ものすごい』事は忘れてはいけませんが、彼にはなにか神懸り的なものも感じました.『ヤン・ネメッツ』に2連勝ですから…

日本チームも最後の力を振り絞って戦いました.私も順位こそ28位でしたがポイント的には1番良い結果でした.またSL競技とのコンビネーションで17位と過去最高位を記録する事が出来ました.

この種目については日本での公式戦もないという事で評価も競争もしようがありませんので他のチームメイトについてはコメントできません.しかし各自『命を掛けて戦い抜いた』ことは確かです.

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今回の遠征は,私や他のチームメイト,行く事のできなかった日本のグラススキーヤーにも多大な影響があったことは確かでしょう.世界選手権で実力不足を実感した『八島選手』がその後の全日本選手権で『ラップタイム』を記録するほどの急成長を見せた事で,他のグラススキーヤーにも勇気を与えました.藤本選手もさらに目標を見出せたでしょうし,わたしも以前にはないモチベーションを作る事が出来ました.国内で選手たちが大会に参加する意義を見出せる事ができるようになった事で、今年のグラススキー選手たちは幸せなシーズンを送る事が出来たのではないでしょうか…

最後に今後の選手強化としてはヨーロッパの強国がいる中で大会に出場したり技術交流が必要と思います.世界選手権だけにこだわらずよりハイレベルな大会にて経験をつむ事が最終的に実力アップにつながるのではないでしょうか…

文面でお伝えする事が出来ないスーパーアスリート達のパフォーマンスはビデオにて編集済みです.是非御覧になってください.

以上で感想文とさせて頂きます.

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